松原 茉莉「表象のみの乖離、あるいは蓄積と忘却、あるいはイデアの概念、またそれらを含む個物」


松原 茉莉「表象のみの乖離、あるいは蓄積と忘却、あるいはイデアの概念、またそれらを含む個物」

松原 茉莉
「表象のみの乖離、あるいは蓄積と忘却、あるいはイデアの概念、またそれらを含む個物」

この作品で私は“写真を水に溶かす”という共通行為から回収した3つの概念的要素[表象のみの乖離、蓄積と忘却、イデアの概念]を扱い物質に行為を介して概念としてのイメージを表出させる。

従来の写真がモノであったように、“写真を水に溶かす”ことで作品をパルプとインクのメディウムからなる物質的認識へと帰化させるとともに、水と私による自然発生的/無意識的な行為の介入を写真に図ることで実在性を保持した唯一のイメージをつくり、現代の写真へと向かう意識を再生させたい。


“表象のみの乖離” (作品1-4)

これらは単一の“花瓶に入った花の写真”と”人物の写真”から構成されている。
ただそれは“そこにあった”という事実と“花である/人である”という認識でのみいえる事であり、“表象が乖離している”という状態によってそれぞれが唯一の異なるイメージをもたらしている。これは内容と表象が一致するという「写真/実在」が存在するための前提から外れている。

写真が水に溶ける瞬間に「写真/実在」は希薄化し物質としてのパルプとインクに立ち戻る。作品を構成するためのメディウムとなったパルプとインクに、筆としての水と私が介入しながらイメージを構築する。水から引き上げたイメージは表象のみが乖離したまま定着し、物質としての痕跡を残したまま存在することが出来る。

これを私は「写真/実在」であったものを「写真/実在」以前の状態に解き放ったうえで新たな唯一のイメージを表し成立させるための行為としている。


“あるいは蓄積と忘却” (作品5-8)

私の家族写真は私が生きてきたことの証拠である。それはここに存在する私の意識よりはるかに確実で、具体性のある過去の事実として家族や親戚によって残されてきた。私はたくさんの物事を蓄積しながら、同時に忘れながら生きる。 “忘れる”ということは無になるということではない。“忘れる”ということは不確実になるということだ。

生きている限り、生きてきたことは生きていることの理由となり、また生きてきたことで蓄積した物事が生きていくうえでの様々な理由となる。

生きてきたこと - 私の家族写真
生きていること - 水に溶かす

と当てはめて私の不確実な記憶を表出させる行為とする。
概念化した蓄積と忘却のイメージは、たちまち“私”という個人を越えた全体性の中の一部分となる。


”あるいはイデアの概念” (作品9-12)

プラトンは、世界にはイデア界と現象界の2つがあるとした。私達は現象界の住人であり、私達が“美しい”と感じる個々の物はイデア界での“美のイデア”を分有した物であるという。つまり“美のイデア”は“美しさそのもの”であり、“イデア”は物事の本質や原型を表し、また人間は美しい物を見ることで想起した“美のイデア”によってそれが“美しい”と感じるのである。

実在している物を手がかりに本来の姿を想起するという人間精神の構造に基づいて、名画のイメージを水に溶かした。これを知覚することで、私たちは無意識に本来の絵のイメージを想起しようと試みるのである。

ここに在る物を通じてここに無い事物を想像するという無意識の行為こそ、イデアを伴う美の概念を感じることの本質的行為なのであると考える。


”またそれらを含む個物” (作品13)

表象のみの乖離、蓄積と忘却、イデアの概念で表出させたイメージを集結させて溶かし合わせる。単一の概念だったものが他の概念と重層的に混ざり合い結合することで、新たな秩序が生まれる。

表出したひとつの全体には概念が含まれ、それを細分化したところに個がある。
これは、私たちが生きている世界と同じ構造である。

この個物は小さな世界とも、世界に含まれる小さな個物ともいえる。つまり全体の中の部分は、同時にひとつの全体なのである。


・作品についての思考

作品制作と相互に展開した思考のメモ。制作⇄思考の作用、また鑑賞者⇄私の作用における作品の展開は言語や図を通じてあらわすことが出来る。作品は完全なるものでなく、世界や”私”という存在と同じようにその概念や在り方が流動的に変化するという思想に基づいて、作品が成立するための過程の断片として示している。


・作品制作、活動のお知らせはインスタグラムから覧いただけます。
@_rnoori ( https://www.instagram.com/_rnoori )




作品一覧 https://www.nuaphoto.com/2020sotsuten

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