中野 優太「Water topography」


中野  優太「Water topography」

中野 優太
「Water topography」

私たちの世界には、別の時間が流れる空間が存在している。私の場合で言えば家の裏にある森がそうだ。
その森の先には川がある。雨が降れば雨水がそのまま川に繋がる。さらには、その川は海へと繋がり、気体となってまた雨となる。
私がいる環境ではこのような水の循環が身近に行われているが、それを目で確認することは容易ではない。もっと言えば、普段生活している中で森で起きている事象も、そこに流れる時間も確認できないのだ。
それを実感したのは、今年起きた台風19号によって森で土砂崩れが起きた時だった。水の流れや見えない力が絡み合う糸のように重なり、一夜にしてその地形を変えたのだ。しかし、家にいた私はその出来事に気づくことができなかった。
私たちのいるこの世界には、それぞれの空間における時間が個々に存在していて、その重なりの中で私たちは存在していると考える。それぞれの空間で起きている事象や時間の流れは認識できない。
しかし、認識(認知・確認)できない空間で起きる事象をもし視覚化することができるのであれば、自然現象を写し取ることができるのではないだろうか。そして、それはこの世界を作り上げている要素や見えない力、そこで流れる時間の存在を認識するのと同じなのではないかと考えた。


私はサイアノタイプ の薬剤を塗った印画紙を雨が降るのと同時に森に置き、1日〜3日放置した。そして、それを回収することで別空間(森)についての認識を試みた。

水の循環の中で起こる事象や流れる時間を現象として紙面に定着させるために、あえて自分の手を介入させずに製作を行った。雨の降り注いだ印画紙には、雨粒の跡や植物の跡、水が地形に沿って流れる跡が残り、その空間で起きた事象や地形が写し出される。また、水に作用する重力や流れる時間の速度といった見えない要素までも立ち現れてくる。それは、まるでその土地そのものを形取った標本のように感じた。

私たちが毎日触れる水の中には、この世界の様々な人や生物の触れたことのある水分子が最低でも800個以上はあるという。それは、憧れの俳優や歴史上の人物、恐竜や太古の植物も含まれる。そして、水の循環の中で私たちはその水分子に毎回触れながら、自身の痕跡も残していく。
私は、水には限りのない時間が流れ続けており、水はこの世界の記憶に近いものと考えた。
水は循環の中でこの世界の記憶を蓄積し続ける媒体であり、それを扱い印画紙上に取り入れようとすることで立ち現れてくるのは、世界を構成する見えない要素や限りない時間の流れではないだろうか。

水の循環がその空間にもたらす事象を一枚に定着することで、(認識できない)その土地の地形を想起させる。
この作品は身近に存在する認識できない別空間で起きている出来事や時間を、水を通して視覚化するためのものである。それとともに、そこに立ち現れる見えない力や要素を認識できる標本でもあり、またその土地と鑑賞者とのつながりを持つための装置でもある。


memo
私たちが毎日触れる水の中には、作品が触れた水分子も含まれている。水の循環の中で私たちは作品と繋がり、さらには、認識できないその土地とも水を介してつながっていると言える。




作品一覧 https://www.nuaphoto.com/2020sotsuten

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